むろみとカルチャーは今夜も夢中

一期は夢よ、ただ狂え

季節外れの花火かと思ったら月だった

季節外れの花火かと思ったら月だった。

気がついたらまたみんなと同じになりたがっている。
誰かが太い道と言っていた。
そこで寝っ転がりたいと思った。

 

季節外れの花火かと思ったら月だった。
ふと普通になりたいと思った。
過半数を超えたらマジョリティと言うらしい。
そこでカメレオンになりたいと思った。

 

季節外れの花火かと思ったら月だった。
自分から裏路地へ入って行った。
大通りを気にしつつも、ここでいいんだと言い聞かせていた。

 

大通りを車で行き交う人たち。
意識してか無意識か、ふと細い道をスイスイ走り抜ける車に憧れた。
そして励まされもした。

 

季節外れの花火かと思ったら月だった。
大通りでは事故が多発しているらしい。
僕は裏路地に逃げ込んでそのまま眠り込んだ。

ぬるっとした空気が全身にまとわりついて目が覚める。
まだ裏路地にいたことに安堵のため息をつく。
いつからだろう。
裏路地が愛しくて愛しくてたまらない。
裏路地に辿り着くことができた自分も愛おしくてたまらない。

 

ふとポッケの中の小銭が転がった。
向かう先は大通り。
行き交う人の足の裏で、その小銭は止まった。
大事にしまったあと、また自分の居場所を確認するために、裏路地へ戻った。

僕が好きなものしかない場所。
僕の好きな人しかいない場所。
いつしか心地よくなって、また眠ってしまった。

 

そして今日も大通りを横目に、裏路地を突き進む。
これが僕だと、何者にも染まれぬ者が歩む道だと盲信しながら突き進む。
振り返ったらやるせなさで崩れてしまいそう。
だから僕は、裏路地に咲いている花を、草を、精一杯愛でる。
そこでたまたま手が触れた人と語り合う。

 

季節外れの花火かと思ったら月だった。
何にも似ていなかった。
空にあるという共通点1つで交じりあった2つが、僕を目覚めさせる。

それはまるで大通りを歩く人たちのように見えた。
きっとそれくらい奥まった裏路地に入ってしまったのだろう。

あの大通りからは見えない。
そんな優越感がよぎったら、あの月を掴まえに行くまでだ。

 

いつしか大通りはパンクし出す。
気づいた時には裏路地への入口は閉ざされているだろう。

僕は閉ざされたことを知らないまま、裏路地をスイスイ走り抜ける。

 

季節外れの花火かと思ったら月だった。
閉ざされた入口の外側から、太陽の光が僅かに漏れていた。
もう振り返ることはない。月光を頼りに進んでいくだけ。


季節外れの花火かと思ったら月だった。
月明かりが絶対的な共通項の脆さをあぶり出した。
それだけ違う2つが共存している世界。
大通りではたくさんの人が賑わう世界。
僕は水面に反射した自分の顔を溺愛しながら進む。
いつか横目に見ていた人たちが追いつけなくなるまで進む。

 

季節外れの花火かと思ったら月だった。
同じことなんて何もなかった。
同じようなことが集まっている世界だった。

いつしか大通りを歩く人に連なり、自分を殺した。

 

季節外れの花火かと思ったら月だった。

自分がいなくなったことに気づいても、もう裏路地へは入れない。

いつしか君は薄気味笑っていた路地裏に入りたくなっている。

 

そんなこととは露知らず、僕は色んな乗り物を駆使して裏路地を進んでいく。

もう大通りへ誘い込もうとする声がしても、戻り方がわからない。

戻ろうとしてももうそこは誰かが看板を立てただけの道だ。

いつもより眩しげな光が裏路地を照らしていた。

 

季節外れの線香花火かと思ったら満月だった。